出たとこデータサイエンス

アラサーでデータサイエンティストになったエンジニアが、覚えたことを書きなぐるためのブログ

「はじめよう位相空間」感想 ー 挫折しない位相空間の学び方

情報幾何を勉強するための前準備として位相空間を学び直していたところ、「はじめよう位相空間」という痒いところに手が届く教科書に巡り会えたので、紹介する。
学生の頃は位相空間に手も足も出なかった私でも大まかなイメージを掴むことができたので、位相空間をこれから勉強する人、一度挫折した人には非常にオススメ。

はじめよう位相空間

はじめよう位相空間

位相空間は何故学びづらいのか

位相空間論は、専門的な数学を勉強する上で必須の知識にもかかわらず、抽象的で挫折率が高い科目として悪名高い。
学生の頃の私も、位相空間の定義を見るたびに教科書をそっ閉じしていたクチで、殆ど何も理解できなかった。

位相空間論の困難さの原因は色々とあるのだが、私は次の2つが特に大きいと思う。

  1. 連続写像同相写像のイメージが湧きづらい
  2. 距離空間位相空間のギャップが甚だしい

1. 連続写像同相写像のイメージが湧きづらい

位相空間というのは、かいつまんで言うと連続写像同相写像の定義できる空間のことだ。最初に連続写像同相写像のイメージを持っておくことは、後の学習で大いに助けになる
にもかかわらず、連続写像同相写像の厳密な定義は、予備知識なしにそれだけ読んでも到底イメージが湧きづらい
連続や同相のイメージなしに記号の渦の中を突き進んでも、いったいそれが何を表象しているのか見当がつかないため、途中で挫折する羽目になる。

2. 距離空間位相空間のギャップが甚だしい

距離空間の定義は、「距離」という日常に根ざした概念に依拠しているため、ある程度直感的に把握しやすい。
しかし位相空間の定義となると、「開集合族」というなんだかよく得体の知れないフワフワしたもので記述されており、お化けを相手にしているかのような不気味さがある。
この「距離」と「開集合族」という2つの概念の乖離のために、位相空間がこの世のものではないかのように感じてしまって学習に身が入らない。

「はじめよう位相空間」は上記の問題にいかに応えているか

「はじめよう位相空間」は、上記の2つの問題に見事に応えている。

1. 連続写像同相写像のイメージが明瞭

この本では全編を通じて写像を図形の変換に対応させて説明しており、連続写像同相写像は次のように紹介される

  • 連続写像とは、図形を破らない変換
  • 同相写像とは、図形を破ったり貼り付けたりしない変換

この図形的なイメージのおかげで、読者は「連続or同相とは何か」という抽象的な問いを「図形を破るor貼り付けるとは何か」という具体的な問に置き換えて読むことができるようになっており、迷子にならずに済む

2. 距離空間から位相空間へのシームレスな接続

連続・同相の定義は、距離空間では比較的直観的に定義することができる。
これは、距離という概念が我々にとって馴染みがありイメージがつきやすいからだと思う。
しかし実は、連続・同相の概念は、直接的に距離を使わなくても記述することができる(具体的には「同相写像とは、開集合を開集合に移す写像」という形で書ける)
この「距離から開集合へ」というパラダイムシフトこそ、位相空間を理解する上での最大のキモかつ難所だと思うのだが、この本ではそのギャップを埋めるのに2章を費やしており、説明も丁寧だ。
位相空間を開集合族の振る舞いによって定義する方法が、非常に自然なものであることが理解できるよう、最大限の配慮がなされていると思う。

読む上での留意点

予備知識

この本を読む上で必要な知識は殆どないが、ε-δ論法による連続関数の定義を復習しておくとスムーズに読める。

読み進め方

時間があれば1ページずつ丹念に読めばよいと思うが、私は手っ取り早く大要をつかみたかったので、問題や定理の証明は全てすっ飛ばして1日で読んだ
そういう雑な読み方をしても、本文が充実しているために全体のストーリーは十分に理解できた。
2週目は、きちんと落ち着いて1行ずつ咀嚼していきたい。

発展的な学習

本文にも書いてあるが、この本は位相空間の詳細な性質を追うよりは直観的なイメージを掴むところに重きを置いているため、この本をマスターしたら別の本格的な教科書(松坂本とか内田本とか)を読むことが必要と思われる。

感想

苦手意識の強かった集合位相論に対し、何とか取っ組める自信がついてきたので、いずれは多様体微分幾何、最終的には情報幾何を勉強していきたい。

はじめよう位相空間

はじめよう位相空間